鯖缶@3rd&forever

2児の父のエッセイブログです。子育て、英語ネタ、コールセンターあるあるなど。

スポンサーリンク

翻訳と調べ物

翻訳と、調べ物は切っても切れない関係にある。翻訳スクールでは、「調べ物」だけを切り取った特別授業が組まれたりするし、翻訳者同士でたまに会ったりすると、「調べ物の苦労話」で延々と話し続けることができたりする。

僕も、調べ物の苦労話などを紹介しながら、翻訳の面白さを紹介してみたい。

 


英語だけできれば訳せるわけじゃない

原文:It’s a 400, it’s 30 over, it’s ten to one.

例えば、車のカスタム(改造)についての番組があるとする。改造の手順やテクニック、完成した車のカッコよさとか、車のスペックを説明するような、ノンフィクションのバラエティ番組みたいなの。「劇的ビフォーアフターのカーマニアバージョン」を思い浮かべてみたら近いだろうか。

その番組内で、「これから車に載せるエンジンを説明する」というような流れで、上記のような文章が出てきた。

これは、英語の知識だけでは到底訳せない。「it」が何を指すのか前後の文脈から分かれば、それぞれの数字のあとに来る単位が推測できるし、逆にそれぞれの数字が何を表しているかが分かれば、itが何を指しているかが分かるはず。でも、この文は両方が省略されていて、解釈がとても難しい文章だ。

正直僕には正解が分からないんだけど、一応自分なりにたどり着いた答えがある。

400は、エンジンの総排気量(400立法インチ)。30 overは、エンジン内のシリンダーの内径を0.030インチ広げる改造をしたこと、ten to one(10対1ということ)は圧縮比(燃焼室の圧縮前の最大容積と圧縮後の最小容積の比率で表すもの)をそれぞれ指しているものと解釈した。

排気量 - Wikipedia

ボアアップ - Wikipedia

【意外と知らない】エンジンの圧縮比って何? – WEB CARTOP

 

例えばこのように、翻訳は一筋縄ではいかなかったりする。「英語」と、「読解」の双方が揃わないと「内容」の理解ができない。

カーマニアの視聴者に向けて作った番組だと、「説明しないでも分かること」は省略されてたりする。だから、「説明を省略していること」の理解を埋めるために、「調べ物」が必要になってくるのだ。

 

(スポンサーリンク)

 


定訳を踏まえて訳す

Baker streetという言葉があったとして、ここに出てくる「street」をどう訳すか。ベーカーストリート、ベーカー通りなど、いろんな訳し方がありそうだけど、ある前提が加わると、訳語はほぼ一択となる。

 

Baker street=ベーカー街

(↑Amazonのリンクです。2次創作の作品ですが、一例として) 

 

シャーロック・ホームズの住んでいたところ、ということが少しでも念頭にあるような文脈であれば、Baker streetを「ベーカー街」としたい。「シャーロック・ホームズ」に出てくる地名だと分かるように訳さないと、「Baker street」という地名をセリフに出した意図が伝わらない可能性があるからだ。(※表記としては「ベイカー街」もあるようです) 

ベーカー街221B - Wikipedia

 

John=ジョンとは限らない

ビートルズについて話しているんならJohnはジョンだけど、聖書ならヨハネと訳さなければならない。さらに言えば、「洗礼者ヨハネ」なのか、「使徒のヨハネ」なのかを見極めなければ誤訳になってしまう。

文だけでなくその背景を理解し、その背景を表すために過去の例ではどのような前例が使われてきたかも確認しながら翻訳を進める必要があるのだ。

洗礼者ヨハネ - Wikipedia

ヨハネ (使徒) - Wikipedia

 

(スポンサーリンク)

 

解釈が正しいのか確認するために裏を取る

ボルボ・オーシャンレースという、世界一周のヨットレースがあって、参戦するヨットチームのスキッパー(船長)のインタビューで、次のような文が出てきた。

原文=A long leg in terms of distance but a short leg in terms of time because it took us to the southern ocean and the strong wind.

訳例=距離という意味では長いレグだが、時間という意味では短いレグだ。このレグは南の海でのレースで、風が強いからね。

(※レグ=ヨットレースの航路の一区切り。駅伝の区間とか、ジョジョの「スティール・ボール・ラン」の各ステージみたいな感じ)

この解釈をしてから、ふと疑問に思う。「長いレグ」だけど「短いレグ」ってどういうことか。次のような背景を確認すると、解釈が確認できる。

・そのレグは、具体的にはどこからどこまでなのか。(南アフリカのケープタウンから、オーストラリアのメルボルンまで)→距離が長い

・南半球では風が強い(陸地が少なく、その分強風が吹くことが多い)→ヨットを速く走らせることができる→時間が短い

吠える40度 - Wikipedia

 

この確認作業を経て、スキッパーの発言意図が分かる。「長い距離のレグだけど、風が強い海域だからスピード勝負になる」というようなことが言いたいのだ。翻訳者としては、その前提を理解した上で、訳語を選んでいく必要があるだろう。

 

ボルボ・オーシャンレース | ボルボ・カー・ジャパン

ボルボ・オーシャンレース - Wikipedia

 

まとめ

翻訳の時には、言葉を外国語から日本語に置き換えるだけでなく、「原文が説明している内容の理解」「その言葉や現象を、日本語ではどのように記述してきたかの歴史」などを総合的に踏まえる必要がある。そこが難しいし、面白い。


今回は、以上でおしまいにします。苦労話を通じて、翻訳の面白さを伝えるような記事を、また書いてみたいと思います。最後まで読んでくださってありがとうございました。

(蛇足:「ウィキペディアの情報を鵜呑みにするな」というのが翻訳者の常識ですが、やはりわかりやすいページが多いので、この記事内ではウィキペディアのリンクを貼りました。興味深い記事なので、興味があればリンク先へ飛んで読んでみてください!)

 

(スポンサーリンク)

 

 

www.savacan3rd.com

www.savacan3rd.com

www.savacan3rd.com

 

スポンサーリンク