鯖缶@3rd&forever

2児の父のエッセイブログです。子育て、英語ネタ、コールセンターあるあるなど。

スポンサーリンク

【日記】ロウ・イエ監督「未完成の映画」の感想(48歳になってもHIPHOP入門75)

2025年5月某日 訳のわからない映画だったけど、確かに「愛と勇気」が描かれてる

ロウ・イエ監督の、「未完成の映画」が面白かった。

 

映画冒頭。大きなディスプレーに、大きなハードディスクが接続されて、起動される。PCが起動することに、わずかなどよめきが起こる。どうやら、そこに集まっているのは、映画監督とそのクルーらしい。10年前に中断して、未完成のままになっている映画がある。これを完成させたい、という。

 

これは相当にエモい出だし。「やりかけだった何か」は誰にでもある。それにケリをつけるために、仲間たちが再会するのだ。自然と映画人たちを応援したくなる。

 

監督と、主演男優の会話がいい。男優が、「もう10年前とは状況が違う」「公開できない映画を完成させてどうなる?」「妻も子どももいる。ビジネスにならないなら出演できない」と、かなりキッパリと断るのに、それを黙って聞いていた監督の方は「いつならスケジュールを空けられる?」と聞き返すのだ。できない理由をすべて理解した上で、すべてを無視して出演交渉するのが、「どうせ出演してくれるに決まってる」と知ってるっぽくて泣ける。

 

感情移入できそうな序盤だったのに、中盤以降、僕は見たことのない展開を見させられる。クルーたちの思いを乗せた映画の撮影が、その途中に訪れたコロナ禍のロックダウンによって、無惨に“破壊”されるのが、ドキュメンタリータッチで描かれるのだ。

 

撮影クルーの宿泊しているホテルがかなり唐突に封鎖される。警察なのか、役所の職員なのか分からないけど、訓練を受けた専門の部隊にしか見えない威圧感を持った「当局の人間たち」が、「実力行使」に限りなく近いテンションでホテルを制圧。撮影クルーは、それぞれ自分の部屋に追いやられ、隔離・幽閉される。これでは、映画の撮影など続行できるわけがない。

 

“人生の進行を不条理に妨害された”というのが、コロナ禍(病気そのものへの不安と、混乱する社会情勢への不安のシナジーがエグすぎた)に生きる庶民の実感ではなかったか。どれほどの思いがこもっていようと、百戦錬磨の職業人だろうと、関係ない。理由も展望も分からない。ただ単に、映画の続行は不可能だということだけは分からされた。

 

多用される「スマホ越しの映像」の演出が興味深い。主演男優は、子どもを産んだばかりの妻とFace Timeでずっと話してる。離れ離れで、お互いのことが心配なのだ。Zoomでの撮影会議。監督は、シナリオの大幅な変更を伝える。このロックダウンの現実を、映画に組み入れる、という。キャストもスタッフも、自分のスマホであらゆる断片を記録するように指示される。そして、SNSから伝わるニュース映像。スマホ画面の動画に、映画が侵食されていく。

 

フィクションのレイヤーが入り乱れて、それを見ている僕は、いちいち区別して理解するのが面倒になる。「10年前の映画」というフィクションの階層があって、それを作っている監督やクルーのやり取り、という階層がある。これも「映画を作る」を演じているフィクションなんだろうけど、それに侵食するスマホ画面たちの階層は、「現実」っぽさも混じってる。ニュースもあるし、少なくとも現実の再現を題材にしていそう。「10年前の映画(階層①)」「10年前の映画の続きを作るというドラマ(階層②)」「10年前の映画の続きを作ることが中断され、その舞台裏の様子を記録(階層③)」という過程が短時間で起きて、頭が飽和する感じが、なんとも恐ろしい。

 

この演出が「情報が多すぎて圧倒される。いちいち消化するのが面倒すぎて思考が停止してしまう」という“コロナ禍の追体験”として機能する。「何についての映画だったのか分からなくなる」という感覚が、コロナ禍の「やり場のない怒りが、くすぶったりぶり返したりする感覚」に似ていて、なんともツラくなる。

 

さて、スタッフもキャストもそれぞれの部屋に閉じ込められて、ズタボロになった終盤で何が起きるか。スマホ越しに、それぞれが「なけなしの空元気」を伝え合うんである。Zoom会議の分割画面が、「奇妙な踊り」「奇妙な筋トレ」「奇妙な歌」のコラージュになっていくシークエンスは、味わったことのない映画体験だった。

 

家族や仲間たちを少しでも安心させようと、「元気なフリ」をするのだ。本当はツラいから、それを分かってもらい気持ちもある。それで強がりだとわかるようなネタっぽいダンスになっちゃった、というような。分割画面の中で、痛々しい「元気」をぶちまけている。無様で、ヤケっぱちだけど、愛する誰かを励ましたくて「元気なフリ」をするのが人生じゃないか、と僕は受け取った。

 

訳のわからない映画だったけど、確かに「愛と勇気」が描かれてると思った。映画はそういうものを描くべきだし、あの訳のわからないコロナとロックダウンが描かれてると思った。いいいものを見たよ。

 

(公式サイトリンクです↓)

www.uplink.co.jp


(日記の続きはこちらです↓)

www.savacan3rd.com

 

(1つ前の日記はこちらです↓)

www.savacan3rd.com

 

スポンサーリンク