2025年4月某日 絶対に読んだ方がいいマンガを見つけた
僕「最近、めっちゃ面白いマンガ見つけたんですけど」
Sさん「本当ですか」
僕「絶対読んだ方がいいです」
Sさん「え、教えてください」
僕「『ザ・シェフ』っていうんですけど」
Sさん「(笑)最高のマンガ掘り出しちゃったじゃないですか~」
これは職場で。KindleUnlimited仲間のSさんとの会話。しょうもないボケではあるんだけど、拾ってくれてうれしかった。(昨日の日記ではSさんへの内心ディスが止まらなかった5分間を振り返ったけど、いつもは全然嫌いじゃないので)
「ザ・シェフ」を知らない人のために、僕の渾身のボケがいかに面白いのかを念のため伝えておくと、「ザ・シェフ」は、断じて「めっちゃ面白い」わけではなく、「絶対読んだ方がいい」わけではなく、今さら「見つけました」と報告するような種類のマンガではないんである。
僕は、2週間ぐらい前からちょっとずつ読み始めて、今日15巻まで読んだぐらいなんだけど。これが、まあ、はっきり言って、「取るに足らないマンガ」なのね。深い心理描写があるわけでなく、意外な結末があるわけでなく、主人公の魅力も「そこそこ」としか言いようがない。
一話完結の連作ストーリー。主人公の味沢匠は、法外な報酬で臨時の仕事を請け負い、「幻の料理人」と呼ばれるニヒルな一匹狼。料理の腕に絶対的な自信を持ち、カネさえ受け取ればどんな仕事も断らない。…おいおい、手塚治虫の「ブラックジャック」の完全なパクリじゃないか。「ザ・シェフ」のスゴいところは、「ブラックジャック」の劇構造をそのまま借りてるだけじゃなくて、主人公の性格、見た目、セリフの言い回しまでそっくりなんである。手塚先生のマンガをパクってそれを隠そうともしないなんて、まさに「神をも恐れぬ所業」そのものでしょ。
ブラックジャックはさ、「天才外科医」なんで、「法外な報酬」っていうのもわかるじゃないですか。依頼する側は、命が懸かってるわけで。で、命が懸かってるのに、「カネを払わなければ引き受けない」っていう態度がダークヒーローとしての魅力でしょ。でも、味沢匠はシェフだからね。命懸かってないのよ。それでも依頼する側は高いギャラを払うのは、「フリーランサーとして、実力を認めてるから」なのよ。ただの人気者じゃないか。チヤホヤされてるのに、「身の上話は聞きたくありませんな」とか、それは「馴れ合いを嫌う職人気質」じゃなくて、単なる「不機嫌」でしょ。「ちょっといい話」で終わらせるためのアクセントとしての「不機嫌」。かなり「取るに足らない」でしょ。
そんなわけで、「ザ・シェフ」は、「絶対読んだ方がいいマンガ」では断じてない。「ザ・シェフ」を読むぐらいなら、「ブラックジャック」を読み直した方が絶対にいい。
…なんだけど、巻数を重ねるにつれて、「ザ・シェフ」の「取るに足らなさ」が、「プロの技」のようにも思えてくる。この作品には、「深さ」や「鋭さ」はないんだけど、そのおかげで、マンネリズムの安心感があるからだ。一見「共感性ゼロ」という態度の味沢匠が、誰よりも人生の機微を理解しており、「ちょっと気の利いたこと」をしたり言ったりすることの繰り返し。毎回だいたい同じAメロBメロ。同じサビ。同じリズム。同じ熱量。毎度の「取るに足らなさ」。「噛めば噛むほど味が出る」じゃなくて、「噛んでも噛んでも同じ味」。
これは案外すごいんじゃないか。並みの描き手だったら、怖くなって、もっと要素を足したくなっちゃう気がする。主人公の「挫折と成長」とか。あるいは、ただ単に料理の豆知識を増やしたり、とか。一話完結じゃなく数話続きの長編バージョンとか。でも、そんな愚かなことはしない。
このマンネリズムのおかげで、読む時のハードルがめちゃくちゃ下がってると思うのね。どの巻から読んでもいい。キャラへの思い入れも、ジャンルの前知識も要らない。ちょっとヒマなら、どんな心理状態でも読める。これ、「ザ・マンガ」じゃないですか。喫茶店でナポリタンを待つ間、会社の昼休みに行くコンビニで、町の床屋さんでの順番待ちで。特に期待せずに一話だけ読んで、満足も不満も感じない。ただ5分のヒマが潰れた安心感。
これでいいのよ。ファンに媚びたネタ選びも、オタク要素詰め込みもない。バトルもハーレムも異世界転生もない。キャラ人気投票もグッズの一番くじも、必要ない。あんなのは邪道なんだ、と「ザ・シェフ」は言っているのだ。「ザ・シェフ」こそが「ザ・マンガ」。絶対読んだ方がいい(読まなくていい)。
(Amazonのリンクを貼っておきます↓)
(日記の続きはこちらです↓)
(1つ前の日記はこちらです↓)