鯖缶@3rd&forever

2児の父のエッセイブログです。子育て、英語ネタ、コールセンターあるあるなど。

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【日記】映像翻訳の添削で、少し心配な答案に出会った話(48歳になってもHIPHOP入門⑬)

2025年1月某日 いつか親友になったら

相変わらず翻訳スクールの添削やってるんだけど。その中で、ちょっと心配な原稿があった。「この素材面白くない」って思いながら訳してるんだろうな、というような訳文の連続で。

 

毒を含んだユーモアとか、ダブルミーニングとか、センチメンタルなセリフとか、そういう「おいしい」セリフに対して、妙にそっけない、というか。「置きに行く」ような、無難な字幕が並ぶ答案だった。

 

で、僕は困ってしまって。多くの受講生は、そういう「おいしい」セリフとか、微妙なニュアンスを拾おうとして、無理のあるセリフを作ってしまい失敗するものだ。その場合、僕はどこが成立していないかを指摘すればいいので、添削の方針が立てやすいんだけど。でも、その受講生の答案は、添削の方針が立てにくくて。というのは、その「無難な訳」がかなり器用で、なかなか案として悪くないんである。

 

字幕の原稿は、「1秒4文字」という字数制限のルールもあるし、映像の再生と同時に表示される(前の字幕をもう一度読み直すことなどない、ということ)という特性上、どうしても、原文のニュアンスをすべて訳文に反映させることは難しい。そうすると、ある程度「見切り」が重要になってくる。どんな情報を残すのかを考えると言うことは、どんな情報を捨てるのかを選ぶと言うことだ。

 

この、「見切りよく捨てる」というのが翻訳者にとってはとても難しいのである。だって、英語力やコンテンツの理解力にプライドがあるからこそ映像翻訳をやっているのであって、原文への理解度を自慢したいのが人情ってものじゃないですか。特に、まだ初心者のスクール受講生にとってはなおさら、「わかってないな」と思われたくない、という心理に陥りがち。

 

「見切りのいい選択をして、前後に矛盾のないセリフを当てはめる」というのは、翻訳者にとって必須スキルなわけで、それを器用にできるということは、決して否定されるべきじゃないはずなんである。

 

じゃあ、なんでその受講生の答案が心配なのかというと、課題の中のそういった「クセのあるニュアンス」のポイントの、すべてを頑なに拾わないからだ。それで、「この素材面白くないな」と思いながら翻訳してるんだろうな、と想像した。

 

これは、大変によろしくない気がした。翻訳者としてのスキルとしても、学習者としてのメンタリティーとしても、「原文の面白さを頑なに認めない」という態度では、原文のニュアンスを拾えない。拾おうとしなければ、センサーを鍛えることができないんじゃないか。

 

それで、困ってしまったんである。訳文は問題ない。だけど、その訳文を作るに至った「姿勢」の部分が直した方がいい気がする。「自分の好みはとりあえず脇に置いて、素材の面白さにシンクロしようとするのも、映像翻訳のキモですよ。冷静な見切りはとても重要ですが、面白さのコアの部分まで無視してしまっては、何も伝わらないじゃないですか」というようなことを、どうやって伝えたらよいのか。

 

でも、45秒ぐらい迷って、結局僕は「そんな説教を添削者がするのもおかしいでしょ」と、「見切り」をつけたんである(45秒しか迷わなかったのかよ)。僕が心配したのは「態度」であって、「その態度、直さないと上達しないよ」と思ってるんだけど、まあ、僕には「態度」は直せないよ。結局、面白さやニュアンスをなるべく拾おうとした訳例を紹介して、そのポイントを解説するにとどめた(そういうテンプレを自分で用意していているので、それをコピペしただけ)。

 

いやはや。どう伝えたらいいか分からず困ってしまうなんて、とんだお人好しじゃないか。「好みじゃない素材に対しどう向き合うか」は、簡単に伝授できるものじゃない。僕から伝えてもどうなるものでもないものを、「どうやって伝えたらいいか」と悩むなんて。僕にも「翻訳者の心」がまだ残ってたということか(45秒で消えて、添削マシンに戻ったけど)。いつか親友になることがあったら、「素材を好きになるのも仕事のうちなんじゃね?」と伝えるかもしれない。

 

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