2022年2月某日 涙もろい1日もある
普段より心が軽かったのか、重たかったのか、自分でもちょっと見分けがつかないんだけど。涙を出してスッキリした。
用事を済ませようと街に出た。横断歩道の前で信号待ちをしてた時。道路を挟んで反対側の歩道を歩く人の列をなんとなく見て。（僕から見て）左から右に歩く1人の女性が、小さく手を振ったのね。ほんの小さな合図という感じ。その手を振った先に視線を移すと、右から左に歩く女性が、やはり手を振ってる。
そうか、待ち合わせだな、と気づく。2人の女性は、距離が縮まっていくのに合わせて、やはり時々手を振って、お互いに気づいてることを知らせ合ってる。なんというか、「お互いにだけ伝わればいい最小限のサイン」を、道路越しに盗み見てしまった感じでちょっと申し訳ない。でも、この風景が何となく心にしみる。人は、待ち合わせて、会う。存在を、お互いに知らせ合ってる。道路越しの視線だから、その2人が目に入ったのかもしれない。
2人は合流し、お辞儀をし合ってる。完全には距離を詰めないのは、コロナ禍で見についたなんとなくの作法かな。すると、右から左に歩いていた女性の少しうしろから、別の女性が来た。どうやら、3人の待ち合わせだったようだ。後から来た女性は、大きなコートを着ている。左から右に歩いてきた女性が、最初は開けていた距離を詰める。どういうことか。
後から来た女性は、若いママで、コートでくるむように赤ちゃんをだっこしていて。その赤ちゃんの顔を見るために、近づいたんだ。ママと、赤ちゃんと、おばあちゃん。そして、左から来た人は義理のお母さんか、それとも親しい友達だったか。コロナ禍で、なかなか会う機会もないままだったのかもしれない。
その少し後。商店街を歩いていくと、僕の8メートルぐらい先で、5歳ぐらいの子どもとそのお母さんが並んで歩いてる。子どもが、何かの拍子で転んでしまった。僕はちょっと緊張する。ケガをするほどの転び方じゃなかったと思うけど、泣いちゃうんじゃないか。
でもその子はすぐに立ち上がって、心配そうに見るお母さんを「平気だよ」という表情で見上げたんだ。2人は手をつないで、子どもはさっきよりむしろテンション高く歩きだした。
用事を済ませた帰りの駐輪所。電動自転車の前椅子に3歳ぐらいの子どもを座らせたお母さんが、子どもに話しかけてる。子どもは、隣の駐車場の料金所のバーが上がったり下がったりするのに興味を持ってるみたい。自分が念力をかけてるようなつもりで、「あがれぇ」と。お母さんはその遊びに気づいてるのか、子どもをさかんに応援してる。「もっと、もっと頑張って。ほら、もうすぐ上がるんじゃない？ やったあ」とか。そのお母さん、子どもにずっと話しかけてるんだ。子どもを励ましながら、その声で、ひょっとしたらお母さん自身を励ましてる。
それらの光景を見ながら、「元気だよ」と誰かに伝えたり、励ましたりすることで、人は自分を勇気づけていくんだな、とか思った。そして、外出自粛が身に染みて、寒さが身に染みて、ずっと縮こまってしまった僕の勇気も、つられてちょっと回復するような感じがした。
ところで、街を歩きながら、僕は珍しく音楽を聴いていた。普段は、お笑いのラジオか、英語のリスニング練習を兼ねたNFLのポッドキャストを聴いてるんだけど、最近は時々音楽を聴く。アップル・ミュージック。検索し放題。聴き放題。
僕が聴いてたのは、「はじめてのビートルズ」だ。それで、まあこれがいちいち「いい」んである。
以前、職場で後輩のS君が「太宰治の人間失格おもしろいっす」とか言ってきて、「知ってるよ！」とツッコんだ。「マジすか。他に何が面白いすか？」とボケてきたので、「全部だよ！」とさらにツッコむはめになった。それと同じかよ。
ビートルズ、全部よくないすか？ あまりにグルーヴがなめらかすぎて気づいてなかったんだけど、エモーションが濃すぎる。曲の展開は軽快そのものなんだけど、そのフレーズがいちいちパンチ力がある。
それで、僕は泣いてしまったんである。「ヘイ・ジュード」を聴いて泣き、「イエスタデイ」「抱きしめたい」「ヘルプ！」「Let it Be」と、全部泣いた。
街を歩く人々の光景に、ちょっとほころんだ心に、ピュアな感情のカクテルが流れ込んだら、そりゃあ涙ぐらい出るよ。銀行のATMやツタヤ、スーパーの食料品売り場が、涙を流すのにふさわしい場所とは思えないけど、まあしょうがない。セルフレジと、「Come Together」。「シュ、シュ」言いながら「ピッ、ピッ」と。でも泣き続けて。
ちょっと、涙を流しやすい心の状態で、音楽の力を借りると泣きやすいのかもしれない。それで、涙を流すと、やっぱデトックス効果あるな、とか思った。ストレッチして筋肉を整えるみたいに。泣くと、心の輪郭を感じて、「本来、心があった場所」に心が戻ってくれる感じがした。スーパーの食料品でおっさんが泣くのはちょっと迷惑かもしれないけど、しょうがない。遠慮してる場合じゃない。
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【日記】TOEIC受けてる場合じゃねえよ⑨ - 鯖缶＠3rd＆forever
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