鯖缶@3rd&forever

2児の父のエッセイブログです。子育て、英語ネタ、コールセンターあるあるなど。

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【マンガレビュー】「きのう何食べた?」好きでいさせてくれてありがとう。

「きのう何食べた?」(よしながふみ)というマンガは、なかなか油断ならないマンガだ。何が油断ならないか。読んでるうちに、自分でも気づかないうちに主人公たちを愛おしく思ってしまい、何気ない1コマに涙腺を刺激されてしまう。


この作品に出会えてよかった。感じたことを思い出して書きながら、感謝の気持ちを確認したい。

 

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読み始めて最初の頃の印象は、「感情移入を強要してこない、“大人の味付け”のマンガ」だと思った。というか、その印象はずっと一貫して変わらない。少女マンガのようなポエムも出てこないし、少年マンガのような決めゼリフも出てこない。青年マンガのような職業上に葛藤がメインテーマになることもない。どちらかと言えば、「ちびまる子ちゃん」の方が近い。日常の小さなドラマが、ただ紡がれていく。


何しろ、主人公の筧史朗(シロさん)にとっての一番の喜びは、つつましい食費をやりくりしてスーパーで安い食材を集め、できるだけバランスよく、できるだけ段取りよく夕食を作ること。そしてそれを、パートナーの矢吹賢二(ケンジ)と一緒に食べること。


このマンガは、シロさんがどんな料理をどう作ったか、が繰り返し繰り返し描かれる。だけど、シロさんは料理を「趣味として極めよう」としてるわけじゃない。だしは顆粒だしで構わないし、特別な食材を探したりするわけじゃない。何という地味な主人公か。


敢えて言えば、シロさん&ケンジがゲイのカップルであることが「マンガジェニック」とは言えそうだ。シロさんは、ゲイであることを職場(弁護士事務所)にも近所にも隠しているし、母親は、彼がゲイであることを消化できずに新興宗教に染まった過去もある。


でも、必ずしも「性的マイノリティ」としての「自己葛藤」とか「苦労」「周囲の無理解や好奇心」などのドラマがストーリー上強調されることもない。もちろん、重要なテーマの1つではあるんだけど、少なくとも「ゲイのカップル」を描くのが「目的」や「手段」になってるようなマンガではない。


では、何がすごいのか。おそらく、「時の流れ」なんじゃないか。僕は最初に、「日常エッセイマンガ」っぽいこの作品の一面を「ちびまる子ちゃん」にたとえた。そして、作品のウェットでないテイストを伝える比較対象としては悪くないんじゃないかと思ってる。でも「ちびまる子ちゃん」との一番の違いは、主人公が「アラフォーのおじさん」であること。そして、エピソードが重ねられるにつれ、その四季に合わせて作中の時間も進み、気づけば「アラフィフのおじさん」になること、だろう。


アラフォーからアラフィフへ。どんな年齢か。作中で描かれるのは、「親の看取り」への様々な準備だ。親が入院、手術をするとなれば、「“もしもの時”がいつ訪れるとも限らない」と心の準備をするし、親が実家を引き払って高齢者住宅に移るのを手伝うエピソードもある。準備とは、もしもの時が来る前に、「親に自分のパートナーを紹介する」「大事な人がいて、幸せにやっている、と伝える」ということでもある。


そして、準備をするのは、「親の死」だけじゃない。「自分の死」への準備(あるいは準備の準備)を少しずつ始めるのが、「アラフォーからアラフィフ」という年齢なんじゃないか。そういう時間の中で、「パートナーが、自分にとっていかに大切なのか」に繰り返し気づいていけたら、そんなに幸せなことはない。


だから、「料理を作るシロさん」と、「シロさんが作った料理」が、繰り返し描かれてるんじゃないか。「日常の当たり前の家庭料理」を、「毎日気張りすぎずに、でも丁寧に作ること」が、「過ぎていく時間へのささやかだけど切実な思い」を雄弁に、濃密に語ってるんじゃないか。


それで、僕は読み進めていくうちに、いつの間にか、シロさんとケンジのことが、愛おしくてたまらなくなった。リアリストのシロさんが、ケンジを甘やかすわけでもなく、ただ何の気なしに口にした優しい言葉に大きく頷き、ロマンチストのケンジが、そんなシロさんに「きゅん」となるのを見て、一緒に幸せな気分になった。


ポエムもない、決めゼリフもない、インターハイも、デスゲームもない、何でもない日常のやりとりに、心が温かくなるんである。こんなに幸せなことはない。読んでると、人の幸せを(妬まずに)応援できる、「まともな心」が自分の中にまだあったことを思い出して、そのことに驚きさえしたんだ。


そんなマンガ。出会えてよかった。ありがとう。続きも楽しみに読みたい。

 

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