鯖缶@3rd&forever

2児の父のエッセイブログです。子育て、英語ネタ、コールセンターあるあるなど。

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映像翻訳者のギャラが安すぎる件

僕は、映像翻訳をやっている。英語のドラマやドキュメンタリーに、日本語の字幕をつける仕事。僕のもらってる翻訳料が安すぎて絶望してるので、書き出して心を落ち着かせたい。

 

(もくじ)

時給換算するといくら?

先月、取り組んだ翻訳案件が調子よく納品できたので、久しぶりにギャラを時給換算してみた。

 

1700円。

 

薄々感じてはいたのだが、実際に数えてみると打ちのめされた。これって、安すぎませんか?


世の中には、もっと安い時給で、もっと大変な仕事をしてる人もいるだろうから、文句を言うな、我慢しろ、と自分でも思わなくもない。


でも「それはそれ」だ。だからと言って「安すぎるギャラの仕事」が存在していい理由にはならないですよね?


この「時給1700円」という数字、何がヤバいかというと、「経費は全部自分持ち」「有給休暇も残業手当も福利厚生もなし」の、個人事業主の報酬としての金額なんである。仕事に使うPC、字幕ソフト(年間35000円)、辞書(10万円ぐらい使いました)、用語集、参考資料、光熱費なんかは「コミコミ」。指示の変更があって徹夜で作業しても、割増料金はない。


そう考えると、実質的な時給は1000円ぐらいなんじゃないか。


もっと恐ろしい話がある。僕は映像翻訳でギャラをもらえるようになってから5年目なんだけど、デビュー当時から比べると、4倍ぐらいのスピードで仕事ができるようになってる。最初の3ヵ月は、時給換算400円ぐらいだった。


時給換算1700円ぐらいになって始めて、「これって安すぎじゃない?」と、書けるようになった。これまでは、「恥ずかしくて誰にも言えない」というのが半分と、「ツラすぎて現実を直視できない」というのが半分で、自分の映像翻訳者としてのギャラについて考えたり、誰かに話そうとは思えなかった。

 

「お金=リスペクト」というのも真実

さて、「安すぎるギャラ」の何がツラいか、というと、「お金=リスペクト」だという真実だ。僕は40代になって、そのことが身にしみて理解できるようになった。


「ギャラなんて、単に需要と供給で決まるもの。仕事の尊さや、人としてのプライドとは関係ない」という考えだって、一方では真実だろう。僕だって今でも15%ぐらいはそう思ってる。でもね、そんなことは、健康で時間があって、自分に自信がある20歳の人間が考えることなんである。


中年になってなお、「ギャラが安くても、自分の仕事には価値がある」と信じられる人などほとんどいない。いたとしても、バカか天才じゃないですか。お金以外の手段で、リスペクトを感じるのは、なかなか難しい。


僕にとっての、「時給換算すると実質1000円未満のツラみ」は、なかなかにシビアなものがある。

(※調子がいいときで1700円なのであって、得意ではない分野とか、体調がすぐれないときなど、パフォーマンスは当然落ちます。調子が悪い時で時給換算する勇気は僕にはありません…)

 

これってプロなの?

じゃあ、この翻訳料に文句があるか、って言えば、実は文句はない。静かに悲しんで、静かに怒ってるだけだ。文句を言うヒマがあれば、自分の実力を上げればいい。同じ翻訳料でも、2倍のスピードでやればギャラは2倍になるのと同じ。


文句がもしあるとしたら、翻訳スクールの説明会かな。「当スクールから、多くのプロが輩出されています。受講生のおよそ6割が、プロとしての仕事の受注に至っています」という説明を受けた。


これは、限りなくウソに近くないですかね。時給換算400円の仕事が、「プロ」って言えますかね。最大限ポジティブに言って、「修行」じゃないですかね。


僕は会社勤務(コールセンターアルバイト)もあって、妻の理解と稼ぎもあったから続けられたけど、“プロデビュー”しても、その後映像翻訳を続けられなかった仲間もいた。


5年経って、「修行」の段階から「なんとか食べていけるキツいバイト」ぐらいにはなってきてるけど、「家族を養うことのできる仕事」と考えるのはちょっと難しそう。


(そう思うと、「プロ」っていう言葉は、定義が曖昧で、要注意だな、って思った。「具体的に言えばどの程度の翻訳料が発生するんですか?」と調べなかった僕も楽観的すぎる。演劇をやめて翻訳の勉強を始めたから、「演劇よりは食べていけるでしょ」ぐらいにしか考えてなかった)


今、僕が考えていること

それでも、翻訳をやめようとは思わないのだから、僕も相当もの好きだな。訳すことは、理解すること。理解することは、尊敬すること。翻訳を通して、僕は世界に参加したい。


今、考えてることは2つ。もっと英語力(翻訳力)をあげること。伸びしろはいくらでもある(なんと幸いなことか)。英語の処理能力は少しずつでも上がってるので、学ぼうという意識を失わなければ、これからでも成長できるはず。


もう1つは、納期に余裕のある仕事を受けること。1日3時間で間に合う仕事であれば、集中して取り組める。残業手当はないのだから、無理をしないと間に合わないようなスケジュールで仕事を受けるのはいい判断とは言えない。


ああ、現況を書き出して少し落ち着いた。また1年後ぐらいに時給換算してみよう。

 

それでも映像翻訳者になりたい人へ

(蛇足ですが、検索か何かでこのコラムにたどり着いた方のためにいくつかメモしておきます)


・僕がスクールに通い始める直前の TOEICのスコアは795点でした。スクールのクラスメートの中で英語力は一番下だったと思います。


・プロデビューする(トライアルに合格する)1年ぐらい前に受けたTOEICのスコアは965点でした。(ちなみに、TOEICのスコアが何か仕事に影響することは、ほとんどないと思います。スクールの学習相談みたいな時に目安にするぐらいでしょうか)


・「映像翻訳 スクール」で検索して1ページ目にヒットする大手のスクールに通って、卒業後はそのスクールの系列の翻訳会社から仕事をもらっています。ギャラは安い方の会社のようなので、積極的に受注先を開拓すれば、もっと“まともな翻訳料”の仕事はあるかもしれません。


・僕が「ひょっとしてやっていけるかも」と感じたタイミングは2つあって、それは「調べ物を英語でもできるようになった」「初見で内容が7~8割理解できるようになった」です。両方とも、プロデビュー後の話です。


・何が言いたいかというと、「英語が得意」というぐらいのレベルの人がスクールで1~2年学んでも、「翻訳で食える」のは相当難しいです、ということ。スクールは「修行を始める体力づくり」程度に捉えてちょうどいいかも。安定した収入があるのなら、その仕事はやめない方がいいと思います。


・それでも、翻訳スクールで勉強した日々は、僕の人生の中で最高の経験でした。毎週夢中になって課題の翻訳をして、講師の添削にへこんだり、クラスメイトの字幕案に嫉妬したり、「知力の総合格闘技」を楽しむことができました。トライアルに合格できるか、仕事として翻訳を続けられるかはともかく、興味があるなら挑戦する価値はあるとは思います。

 

 (以上です)

 

(このコラムの続編のつもりで書きました↓)

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