鯖缶@3rd&forever

2児の父のエッセイブログです。子育て、英語ネタ、コールセンターあるあるなど。

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「おやすみプンプン」(浅野いにお)が胸に迫りすぎた件

暴論であることを承知で決めつければ、機嫌のいい思春期の少年少女はバカなんだと思う。あんなに感受性が敏感なのに、機嫌よく過ごしていられるんなら、都合のいい情報しか受け取ってないのだ。

 

暴論を無理やり続ければ、不機嫌な大人は迷惑だ。自分の中の不機嫌への対処法を覚えないままでは、世に出られない。場面に応じて感受性を麻痺させるのは、生きていくことに必要なスキルだ。だから僕は、思春期にとことんの不機嫌を味わい、それを大人になってから上機嫌で覆い隠した、悲哀のあるシワが刻まれた表情の人が好きだ。

 

そんなわけで、浅野いにお「デデデデ」(デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション)は好きだ。偶然手に取って読み始めて、まっとうに不機嫌な少年少女がちゃんと出てくる。(ネタばらしはしたくないので、雰囲気だけわかるようにamazonのリンクだけ貼っておきます↓)

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 1 (ビッグコミックススペシャル)


さて、「デデデデ」はまだ続いているので、すでに完結している「おやすみプンプン」に僕は手を出した。

 

僕にとって胸に迫りすぎた。以下に書く僕自身の思い出は、全部「おやすみプンプン」をおすすめしようとする意図で書いたものだ。こんな思いを喚起させるような、アルコール度数のつよいマンガだと想像してもらうと、だいたい合ってると思う。(amazonリンク↓)

おやすみプンプン(1) (ヤングサンデーコミックス)

おやすみプンプン(1) (ヤングサンデーコミックス)

 

 

僕の話①電車通学だった中学の頃

中学の頃、僕は電車で学校まで通学していた。そのときの僕の恐怖は、自分の心が誰かに読まれるんじゃないかということ。車内にエスパー的な能力を持った人がいて、僕のエロい妄想とかが全部筒抜けになっているんじゃないか、と思って消え入りたいような気持ちになっていた。つり革や手すりにつかまると、その分心の声が響いて伝わってしまう気がして、なるべくつかまらないように気をつけたりした。あるいは、「そのエスパーは誰の心も読めるはずだから、僕のエロ妄想なんて、大して気にも止めないはずだ」なんて、自分を励ましたりしていた。

 

その頃の僕にとって、「性欲」は「自分の内側にあるもの」ではなくて、「世界から与えられた不条理な暴力」だった。「ただただ不条理な世界に呆然と立ち尽くす」ことを描いた「おやすみプンプン」で、「性欲」が「世界」の側として描かれていたのは、僕にとっては身にしみる説得力があった。


僕の話②物心なんてつかなかった

僕は、両親や妹に笑われるほど、子どもの頃のことを覚えていない。高校1年の頃に演劇と出会って、その後演劇サークルに入ったり、自分で学生劇団を立ち上げるようになって始めて、「自分の記憶」がなんとなくつながり始める。それまでの記憶は、前後の脈略のない断片的なものだ。


「少年にとって、世界は圧倒的なスピードで過ぎていく」というリアリティ。「おやすみプンプン」では、「近距離、中距離、遠距離の描写の画面の鮮明さ」、「セリフや情景の、デッサンの確かさ、丁寧さ」に対比するような、「暴力的な時間の進み方」にも、僕は息を呑む迫力を感じた。

 

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僕の話③鹿児島まで車で行ったことがある

20代後半になって、僕は自主映画を2つ作った。その2つ目。僕は後輩のA君を誘って、レンタカーで行き先を決めない旅に出たことがある。「旅」と言っても、国外に出るわけでもなく、誰と出会うわけでもなく、目的地があるわけでもない。ただ、引きこもる場所を部屋から車の中に変えただけの旅。


そんなものだから、どんどんに西に進んでも、「普段の場所(東京)から逃れられた」という気持ちにはならなかった。むしろ、「日本の端っこまで逃げていっても、どこにも行き着かずに何かに追い詰められるだけ」という切迫感が、日に日に強くなっていった覚えがある。

 

僕が感じていた切迫感は、「おやすみプンプン」で描かれているものに比べれば随分ポジティブなものだったな、とも思う。でも、僕には、「成り行きからの逃れられなさ」が、背が縮むほどに怖い。「おやすみプンプン」の成り行きが怖くて、目が離せなかった。

 

さて、こんなふうに僕は、この作品に吸い込まれて、どろっとした濃密なトリップを楽しむことができた。もちろん、どちらかといえばバッドなトリップである。もう一度読みたいかと聞かれれば、「読みたくない」と答える。それが、僕がこのマンガに送る正直な賛辞だ。

 

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